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心に残る一作
  香水―ある人殺しの物語
パトリック・ジュースキント著 / 池内紀訳 2003年 文春文庫
解説:舞台は18世紀のフランス。町は汚穢(おわい)にまみれ、至るところに悪臭が立ちこめていた。そこに、まったく体臭のない男がいた。男にないのは体臭だけでない。恐ろしく鋭い嗅覚と、においへの異様なまでの執着以外に、男には何もなかった。
皆様は香水って何をお使いでしょうか?カモちゃんはティエリー・ミュグレーのエンジェルを愛用しているんだけど、これは中々ボーイフレンド達に好評。あるボーイフレンドなんかベッドでのエクササイズが終わった直後にこう言ったわ。
「おめえさぁ、くせえよ!すっかり騙されたよ!バーではうっとりするような匂いだったのに、ベッドに入ってしばらくしたら、なんか、野犬の匂いがしてきたよ!」

野犬て!そりゃね、自分の体臭がちと厳しい、という事ぐらいは分かってたけど、まさか野犬レベルにまで達してるとは思わなかったわー。んもう、自分に幻滅!まあ、そんな詐欺まがいのナイトフライトを謳歌しているカモちゃんだから、つくづく思うの。ホントに匂いって大切。時として嗅覚は、視覚よりも、聴覚よりも、味覚よりも、触覚よりも、脳にダイレクトに官能を届ける。それは暗闇の中、恋人と互いの体を求め合い、立ちのぼってくる彼の香りにうっとりした経験のある人なら、誰でも分かる事でしょ?

この小説の主人公であるグルヌイユは、生まれつき体臭を持たない男。しかし彼は、それと引き換えに常人離れした嗅覚を持つ。彼は全ての匂いを敏感に嗅ぎ取り、匂いだけで世界を理解する。そんな彼はある夜、川辺で今まで嗅いだ事の無い魅力的な匂いを嗅ぎ取った彼は、その匂いを求めて川上へとさまよい歩いていくと、そこには窓辺に佇み果物の皮を剥く赤毛の娘の姿が……。

グルヌイユは何も望まないの。ただ一つ、彼が理想とする香りを得る事以外は。これはとても純な欲望。人の迷惑とか世間体とか、彼はそんなのものを一切気にせずに、自分が考えうる“究極の香り”を得るためだけに、生きているの。小説の内容は相当グロテスクで、主人公への感情移入などできるはずも無い作品なのに、読後感が不思議に清々しいのは、グルヌイユが恐ろしく純粋であるがためだと思うのよね。

香水が好きな人なんかは、古式ゆかしい香水の精製方法などが学べて楽しいかも。でも、香水に興味が無い人でも(いや、女とオカマは絶対に興味を持つべきだけど)、へんてこだけど不思議なテンポの良さに、最後まで飽きずに読めると思うのよ。

これは作者(パトリック・ジュースキント)の力ももちろんあるけど、訳者(池内紀)の力が絶対に大きい。だから、話以上に文章の流れが面白い、傑作中の傑作よ!
18世紀のフランスという、私たちの中では“奇想天外”がまかり通る世界観。その中で暗躍した(もちろんフィクションだけど)、醜悪かつ純粋な男の一代記。ガッツリと良い作品を読みたい!って人になら絶対にオススメできるわ。ああ、世界は香りで満ちていて、香りは力を持っている。たった香水一吹きで、人を、世界を、翻弄する事 ができる。そういった事がよく分かる小説なのよ!

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紹介者のプロフィール

【カモちゃん】

小学生の夏休み、自転車で日本一周を志し東京を出発。その晩は伊豆下田の親切な老人の家に泊めて貰うも、老人の“年齢の割に強い腕力”に屈してヴァージンを捧げる。翌日には泣きながら東京の実家へと舞い戻る。 しかし、幸か不幸か味をしめてカマ道一直線。現在は派遣でボールペンに芯を入れる仕事をしながら、日々同僚の苦学生に熱い視線を送る31歳。前科一犯。


【甘宮あまみ】

漫画家を目指してヘルスで働く女の子。日常の行動範囲はアパートとお店、本屋、画材屋、レンタルビデオ屋と狭く、疲れたときはネットを眺めるのが好きな準ひきこもり。漫画を描いてはいろんな賞に応募したり、出版社に持ち込みに行く積極性はある。お店年齢は21歳。